最終回 26才と5ヶ月生きた猫

はじめての方は、3からどうぞ。数字、リンクしてあります。


26才と5ヶ月生きた猫、最終回です。

25才という高齢で、全身麻酔の開腹手術に挑んだミー氏。
一度は死神に手を引かれ、
橋を渡りかけたんだそうですが、

「ミーちゃん……」

「ミーちゃん……」

「ミーちゃん……」

聴力は、最後まで残る、五感だといいます。
「Aを哀しませてはならない」
その一心で、麻酔の河原から戻ってきたのだといいます。


あとは体力さえ戻れば……。
メドは「自分の口からエサを食べる」。

25才の超高齢猫の手術ということで、
点滴だけでなく、
人工給餌用のチューブが入れられ、
万全の体勢がしかれました。

ところがひと月、経っても退院できない。
理由は「自らエサを食べないから」

だんだん納得がいかなくなったAさん、
「そんなチューブが入ったいたら、
私だって、食事する気になんかなれません。
外してください、連れて帰ります」
病院側と直談判です。

「そんなことしたら死にますよ」
「いえ、大丈夫です」
「 何を根拠に言ってるんです」

「飼い主は私です。
ミーは連れて帰ります」

チューブが外され、
病院のケージから、開放されたミー氏。

猫の時間は、人の何倍も早く過ぎて行きます。
ミー氏にとっては、何ヶ月かぶりの、なつかしいわが家です。
Aさん、さっそく手づくり食を用意。

すると?

すると!
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いつものように食べはじめたではありませんか。


猫は誇り高き生きものです。
ましてミー氏は4 分の1世紀も生きている、
長老猫です。

ケージとチューブで自由を奪われたことに対して
猫生を懸けての、
最後のハンストを起こしていたのです。

Aさんにはそれがわかっていた。

だって20代の頃から、苦楽を共にしてきたミーです。
ミー氏のカラダのことは、獣医師に譲りますが、
ミー氏のキモチは、Aさんがいちばんよくわかっています。

ふたたびミー氏とAさんの
おだやかな日常がはじまりました。

ところが異変がひとつ。
ひと月(@人時間)も寝たきりだったことで、
体力より先に、筋力が衰えてしまったのでしょうか。

トイレに行くにも、
あちらこちらにぶつかる。

「たぶん、麻酔の影響だと思うんですが、
目がほとんど見えなくなってしまったようなんです」
とAさんは語ります。

ただ、猫は元来、
それほど目がいい生きものではありません。
ひと月の入院で、本来の視力を補ってきた、
動物としての勘、感、観が、
衰えてしまったのではないか、
そんなことを私は思います。

ここだけの話、ミー氏は、
Aさんが仕事に出かけると、
脚力だけでなく、勘、感、観を取り戻すために、
こっそりリハビリに励んでいたのではないか、
そんな妄想をしてみます。

だって
「ほとんど目は見えてないようなのに、
 ソファには昇るし、もちろん、ちゃんと降りるし、
寝る時は自分のカゴ に入って寝るので、なにがなんだか
?????の日々でした」
これはその頃を回想するAさんのメールです。

最期までベランダに出たりしてたんですからね。
寝たきりになることがなかった。
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奇跡は起きるから、その言葉も存在する。
幸運と信じるキモチと、愛情が、それを起こすのです。by ミー氏



あの日、
ベランダで花の写真を撮っていたAさんと、
ミー氏は4月の陽光に抱かれます。

ムスカリの花に顔を近づけ、
風に目を閉じる。

「ミー、きれいでしょ」
「Aさんや、私の写真も撮りなさい」

遺影を撮らせたミー氏。
ミー氏は自分の死期が近いことを知っていた。
動物的カンを取り戻していた。
死の準備を進めていたのだと思います。




そしてその日はやってきました。

何となくいつもよりミー氏が小さく見え、
心配になったというAさん。
けれどそのまま出社。


夜、帰宅したときには、
冷たくなっていました。


最後まで自分の力でトイレに行った痕があり
えさも食べ、水も飲んでいました。




没 2006 年4月4日 

マンションの近くの公園では、
桜が散り始めていました。
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<完>





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1979年10月30日(推定)—2006年4月4日
この記事を、26才と5ヶ月生きた猫、ミー氏に捧げます。
長文に、最後までおつきあいくださり、ありがとうございました。




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ありがとうございます。

by asokeiko | 2009-02-09 23:45 | よそ猫

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